TEM暗視野トモグラフィーによる規則合金のドメイン構造の3次元観察

Three-dimensional observation of domain structures in ordering alloys

using dark-field TEM tomography

                                                       九州大学大学院総合理工学研究院 波 多  聰

Ⅰ 緒言

透過電子顕微鏡(TEM)によるナノ構造解析技術の1つとして電子線トモグラフィーが注目を集めている。これは、XCT(コンピューター断層撮影法)の原理を応用した3次元観察技術である。電子線トモグラフィーはもともと生物系試料の3次元観察のために発達してきたものであるが、最近では材料系試料への応用も増えつつある。本拙稿では、筆者ら1)が考案したTEM暗視野トモグラフィーによる規則合金のドメイン構造の3次元観察法を紹介する。

Ⅱ 方法および結果

2.1 電子線トモグラフィー

Satoshi Hata, Department of Engineering Sciences for Electronics and Materials, Kyushu University, Kasuga, Fukuoka 816-8580 Japan, E-mail: hata@mm.kyushu-u.ac.jp

電子線トモグラフィーの手順2)-4)を簡単に述べる。電子顕微鏡内で試料を少しずつ傾けながら何枚もの像(連続傾斜像)を撮影していく。理想的には±90°の試料傾斜範囲が必要であるが、通常の薄膜試料の場合には、試料傾斜に伴う電子線透過距離の増大と視野制限のために±6080°が限度である。ただし、傾斜角度範囲が小さいと、情報欠落に伴う分解能低下の影響が強くなるので、少なくとも±60°は必要となる。試料ステージの安定性や3次元再構成像の分解能の観点から、連続傾斜像の撮影は12°傾斜ごとに行うことが多い。得られた連続傾斜像をコンピューターに取り込む。各像の視野ずれなどの補正を行いながら、試料の傾斜軸を見つけ出し、重み付き逆投影法(weighted back projection)などによる3次元画像の再構成を行う。3次元画像再構成ソフトウェアは電子顕微鏡メーカー各社で開発されているほか、研究機関等で公開されたソフトウェア5)を用いることも可能である。

電子線トモグラフィーによって信頼できる3次元再構成像を得るためには、TEM像強度は試料の質量と厚みの単調関数でなければならない。これは、いわゆるmass-thicknessコントラストのことを意味しており、一般にprojection requirement3)と呼ばれている(Fig. 1)。試料が生物切片や非晶質材料の場合にはprojection requirementは概ね満足される。しかし、結晶性試料の場合には結晶格子面でBragg回折が起こり、mass-thicknessコントラストに回折コントラストが加わる。そのため、試料傾斜と共に回折条件が変化すれば、像強度もそれに応じて敏感に変化する。こうなると、試料厚みと像強度の関係が像ごとに違ってくる。また、回折条件は一定でも、動力学的回折効果の影響で回折強度の減衰が起こると(Fig. 1Cの場合)、projection requirementは破綻してしまい、それに伴うアーティファクトが3次元再構成像に含まれることになる。

複相組織で各相の質量が大きく異なり、mass-thicknessコントラストの寄与が圧倒的に強い場合には、結晶性試料のTEM像でも回折コントラストの影響はそれほど問題にならないこともある6),7)。しかし、そうでない場合には、高角度環状暗視野走査透過法(HAADF-STEM)やエネルギーフィルター法(EFTEM)を用いて回折コントラストの影響を抑える方法が採られている3),8)。材料系試料への電子線トモグラフィーの適用が増えている背景には、これらの新しい観察モードが汎用レベルのTEMに普及してきたことがある。

Fig. 1. Explanation of the projection requirement. For a correct tomographic reconstruction, the image intensity should be monotonic functions of physical properties of the specimen (mass, thickness, degree of order, etc.). The figures show that when the image intensity is not a monotonic function of thickness like case C, tomographic reconstructions of the object would contain serious artifacts.

2.2 TEM暗視野トモグラフィーのコンセプト

さらに、結晶性試料の場合には上記のHAADF-STEMEFTEMでは観察できないものがある。例えば、転位などの格子欠陥、結晶粒界、規則合金のドメイン構造(逆位相境界、バリアント)などである。これらは回折コントラストで観察可能な組織であると同時に、結晶を要素とした材料やデバイスの性能を特徴付けるものとしてきわめて重要である。しかし、回折コントラストによる結晶微細組織のトモグラフィー観察は、前述のprojection requirementの問題が原因で実現していなかった。

Fig. 2. (a) [001] projection views of D1a superstructure of Ni4Mo. Two of six orientation variants of the D1a superstructure are shown. (b) [001] diffraction pattern. Superlattice reflections from variant 1 and variant 2 are denoted with solid and broken open squares, respectively. In a tilt series observation of variant 1, the D1a superlattice reflection at hkl = 4/5, 2/5, 0 encircled in (b) was selected for TEM dark-field imaging, and the specimen was tilted with the axis parallel to the [420]fcc direction.

筆者らはTEM暗視野法とトモグラフィーを組み合わせて、NiMo合金のD1aNi4Moドメインの3次元観察を試みた1)fccNiMo固溶体合金から形成されるD1aNi4Moドメインには6種類のバリアントが存在する。そのうち、fcc[001]方向にc軸を共有する2種類(variant 1variant 2)をFig. 2(a)に示す。各バリアントは電子回折図形から区別できる。たとえば、variant 1variant 2はそれぞれhkl = 4n/5, 2n/5, 02n/5, 4n/5, 0n = ±1, ±2, …)に規則格子反射を示す。すなわち、Fig. 2(b)[001]入射電子回折図形において、実線四角形の頂点に位置する反射がvariant 1に、破線四角形の頂点がvariant 2に対応する。対物絞りでhkl = 4/5, 2/5, 0反射を選択してTEM暗視野像を観れば、variant 1のみを明るいコントラストとして観察できる9)。さらに、結晶の傾斜軸をfcc[420]方向にとれば、理想的にはhkl = 4/5, 2/5, 0反射の回折条件を一定に保ちつつvariant 1の連続傾斜像を撮影することが可能となる。


Fig. 3. Calculated dynamical diffraction intensities of (a) fundamental hkl = 200 and (b) superlattice hkl = 4/5, 2/5, 0 reflections for D1a-Ni4Mo crystal. For each calculation, the exact Bragg condition under the systematic excitation is assumed and 5% absorption of the incident electrons is taken into account.

































TEM
暗視野像観察に規則格子反射を用いることにはもう1つの重要な意味がある。Fig. 3D1aNi4Mo合金試料を想定した動力学的電子回折強度計算の一例である(系統列励起でのBragg条件を想定し、5%の入射電子の吸収を考慮)。Fig. 3(a)の基本格子反射hkl = 200の場合には、約34 nmの周期(消衰距離)で試料厚みと共に像強度が振動している。この振動は等厚干渉縞に対応するものであり、試料厚みが17 nmを超えるとprojection requirementは破綻することを意味する。一方、Fig. 3(b)の規則格子反射hkl = 4/5, 2/5, 0の場合には像強度の振動は見られなくなり、projection requirementが満足される試料厚みの範囲は55 nmと、200基本格子反射の場合の3倍以上に広がっている。入射電子線が試料を透過する距離はt0/cosqt0は無傾斜時の試料厚み、qは傾斜角)で表され、q = 60°で無傾斜時の2倍に達する。このことを考慮すると、広い膜厚範囲で単調な像強度変化を示す規則格子反射のTEM暗視野像の特性はトモグラフィー観察に有利であることがわかる。

2.3 TEM暗視野トモグラフィーの実際

TEM暗視野トモグラフィーを実現するためには、連続傾斜像の撮影における技術的課題を克服する必要があった。端的に言えば、如何にして試料傾斜時に回折条件を一定に保つか、という問題である。まず、電子回折図形を見ながら、Fig. 2に示したように結晶の傾斜軸と結像に用いる規則格子反射(ここではhkl = 4/5, 2/5, 0)の方向が平行になる視野を探す。そのような視野が見つからない場合には、鏡体から試料を取り出し、ホルダー上で試料を回転させ、再度視野探しを行う。最終的に、Fig. 4に示すように±60°の傾斜範囲で目的とする規則格子反射(矢印)が常に励起される視野を得る。トモグラフィー観察用の試料ホルダーは、高角度傾斜を可能にするために、通常の試料ホルダーよりも幅狭に作られている(Fig. 4)。現状では、一般的なポールピースを有するTEM2軸傾斜できるトモグラフィー用ホルダーは市販されておらず、1軸傾斜(Fig. 4)あるいは試料ステージ回転機構付きの1軸傾斜ホルダーしか入手できない。そのため、Fig. 4の状況まで回折条件を追い込めたとしても、紙面上下方向の回折条件のずれは残ることになる。

Fig. 5. Suppressing thickness fringe contrast using a beam-tilt function. DFTEM images of the Ni4Mo domains (a, b, f and g) in Ni–18 at.% Mo alloy and diffraction patterns (c, d, e, h and i) taken from the circular areas indicated in the images.


Fig. 4. Part of a tilt series of electron diffraction patterns in Ni–18 at.% Mo alloy and a photograph of the high-angle single-tilt holder. A systematic row containing a D1a superlattice reflection at hkl = 4/5, 2/5, 0, indicated by arrows, is set parallel to the tilt axis of the holder. As a result, the 4/5, 2/5, 0 reflection is always excited in the tilt series.


筆者らは、TEM暗視野像観察で光軸調整に用いられる入射ビーム傾斜機構により、2軸傾斜ホルダーと同等の機能を持たせた1)Fig. 5は実際の回折条件の微調整を示している。試料はNi4Mo規則相とNi不規則相の2相合金(Ni18 at.% Mo1373 Kで溶体化処理後、1073 Kで規則化処理)である。Fig. 5(a)TEM暗視野像において、領域cではNi4Moドメイン内部の像強度が低下し、中空状のコントラストを示している。領域cdから得た電子回折図形Fig. 5(c)(d)を比較すると、Fig. 5(c)では結像に用いた回折波(図中○印)の強度が著しく弱いことがわかる。これは、領域cではBragg条件からのずれが大きいことを意味している。Bragg条件からずれると、実効的な消衰距離が短くなり、回折強度の減衰が試料の浅い所で起こるためにFig. 5(a)のような中空状コントラストが生じるのである。そこで、Fig. 5(c)の矢印の方向に入射ビームを傾けてFig. 5(e)のように励起させると、Fig. 5(b)に示すように中空状のコントラストは消える。Fig. 5(f)は晶帯軸入射近傍でのTEM暗視野像である。この場合、多くの回折波が同時に励起されるために、たとえ結像に用いる回折波がBragg条件を満足していても動力学的回折効果が強く影響する。その結果、実効的な消衰距離が極端に短くなり、Ni4Moドメイン内部に等厚干渉縞が現れている。ここでも入射ビーム傾斜機能を用いる。Fig. 5(h)の矢印の方向に入射ビームを傾けて、Fig. 5(i)のように非系統列反射の励起を抑える。その結果、Fig. 5(f)で見られた等厚干渉縞がビーム傾斜後のFig. 5(g)では消えている。

Fig. 6. Part of a DFTEM tilt series of Ni4Mo domains with the same variant in Ni–18 at.% Mo alloy. For the [001] zone axis illumination (θ = 0°), image intensities tend to decrease toward edges of the Ni4Mo domains, as indicated by white arrowheads.


以上の調整を傾斜角度ごとに行い、Fig. 6の連続傾斜像を得た。中空状や等高線状の等厚干渉縞の無い、均一な像強度分布となっている。無傾斜(q = 0°)でほぼ[001]晶帯軸入射となっており、(Ni + Ni4Mo) 2相合金中のNi4Moドメインはfcc[100]および[010]方向に平行な辺を持つ長方形状に見える。ドメイン内部の像強度分布に注目すると、ドメインの端に行くにつれて像強度が低下しているのがわかる(図中白い矢印)。これは、Ni4MoドメインとNi母相の界面が(100)(010)面から傾いていることを示唆している。

Fig. 7. (a) Tomographic reconstructions of the Ni4Mo domains in Ni–18 at.% Mo alloy, obtained from the DFTEM tilt series in Fig. 6, (b) enlarged views of the area indicated by the white open square in (a), and (c) schematic illustrations of the Ni4Mo domains in which the broken rectangle shows the specimen edge.


Fig. 6の連続傾斜像から求めた3次元再構成像をFig. 7(a)に示す。(Ni + Ni4Mo) 2相組織におけるNi4Moドメインの3次元形態と同一バリアント同士の空間的配置が可視化されている。試料傾斜角度不足による情報欠落で薄膜面垂直方向の分解能が低下することや2-)4)、動力学的回折効果による像強度の非線形性の影響が含まれているものの、この3次元再構成像はNi4Moドメインの形態の特徴10),11)を明瞭に捉えている。c[001]方向(薄膜面にほぼ垂直方向)に100 nmを超えるNi4Moドメインは薄膜試料表面で研磨されて平らに見えているが、一部のドメインは薄膜試料内部にその端部を含んでいる。Fig. 7(a)の正方形で囲んだ領域を3方向から拡大表示したものをFig. 7(b)に示す。この領域には3個の大きなNi4Moドメインが存在し、ドメイン端部と思われるものについては、c[001]方向に先細りした形状をとっている。すなわち、Ni4Moドメインの3次元形状はFig. 7(c)のようになっていると解釈される。このようなNi4Moドメインの3次元形状は、c[001]に垂直な方向からの観察でも確認され、過去の報告10),11)とも一致した。

III 結言

本拙稿では、規則合金のドメイン構造を3次元観察するためのTEM暗視野トモグラフィーについて解説し、(Ni + Ni4Mo) 2相合金におけるD1aNi4Moドメインの3次元形態観察例を紹介した。TEM暗視野像による回折コントラストは結晶構造の情報を含むので、3次元ナノ構造解析の分野に新たな展開をもたらすことが期待される。電子線トモグラフィーによる3次元再構成の精度を大きく左右する因子として、連続傾斜像に含まれるノイズの影響が指摘されている12)TEM暗視野像は一般にHAADF-STEMEFTEMに比べて高コントラストでS/N比が良いので、傾斜角度不足による情報欠落や動力学的回折効果の影響を考慮した3次元再構成法を検討することで、今後さらに信頼性の高い観察が可能になるであろう。

謝辞

本研究の遂行において、木村耕輔氏、堀内隆夫氏、松村晶教授、友清芳二教授、金子賢治博士、桑野範之教授、板倉賢博士(九州大学)、土井稔教授(名古屋工業大学)から有益な助言と協力をいただきました。本研究の一部は、科学研究費補助金(15360336, 15651055, 18681019)、九州大学大学院総合理工学府奨励研究費、文部科学省日英ナノテクノロジー若手研究者国際交流プログラム、池谷科学技術振興財団、コニカミノルタ画像科学振興財団の支援を受けました。

参考文献

  1)  K. Kimura, S. Hata, S. Matsumura and T. Horiuchi: J. Electron Microscopy, 54 (2005), p. 373.

  2)  J. Frank (Ed.): Electron Tomography: Three-dimensional Imaging with the Transmission Electron Microscope, Plenum Press, New York, London (1992).

  3)  P. A. Midgley and M. Weyland: Ultramicroscopy, 96 (2003), p. 413.

  4)  伊野家浩司, 金子賢治, 堀田善治:まてりあ, 45 (2006), p. 598.

  5)  J. R. Kremer, D. N. Mastronarde and J. R. McIntosh: J. Struct. Biol., 116 (1996), p. 71.

  6)  K. Kaneko, W.-J. Moon, K. Inoke, Z. Horita, S. Ohara, T. Adschiri, H. Abe and M. Naito: Mater. Sci. Eng., A403 (2005), p. 32.

  7)  K. Inoke, K. Kaneko, M. Weyland, P. A. Midgley, K. Higashida and Z. Horita: Acta Mater., 54 (2006), p. 2957.

  8)  M. Koguchi, H. Kakibayashi, R. Tsuneta, M. Yamaoka, T. Niino, N. Tanaka, K. Kase and M. Iwaki: J. Electron Microscopy, 50 (2001), p. 235.

  9)  E. Ruedl, P. Delavignette and S. Amelinckx: Phys. Status Solidi, 28 (1968), p. 305.

10)  L. A. Nesbit and D. E. Laughlin: Acta Metall., 26 (1978), p. 815.

11)  J.-P. Chevalier and W. M. Stobbs: Acta Metall., 27 (1979), p. 1197.

12)  H. Friedrich, M. R. McCartney and P. R. Buseck: Ultramicroscopy, 106 (2005), p. 18.



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